失恋レクイエム ~この思いにさよならを~


 それからあれよあれよと数週間が過ぎ、気づけば年が変わろうとしていた。

 あの日から、時森さんから連絡が来ることがなくなり、俺は俺で年末に入り仕事もあわただしくなったことにかこつけて連絡を取れないでいた。たまに早く仕事が片付いた日に、エリザに寄ろうかとしたこともあったけれど彼女の言葉を思い出しては足が向かなかった。

「気にしなくていい」と彼女は言った。

 けれども迷惑じゃないとも言った。でも、彼女からの連絡が途絶えたのは、やっぱりこれ以上関わるなという事なのだろうか、と俺は考えあぐねていた。突然切れてしまった彼女との時間を埋めるように、俺は仕事に没頭していった。

「最近付き合い悪いじゃないの」

 ごくごくと喉を鳴らしながらビールを飲んだ谷津さんが言う。乾杯の後の第一声がこれだ。

「いや、仕事忙しいんですよ」

 俺と谷津さんは、すっかり飲み仲間になっていた。正直、そこらへんの男友達より話しやすく、話していて楽しかった。

「仕事とあたしとどっちが大切なのよぉ」
「それは、彼氏に言ってください」
「つまんないの~」

 なんと、めでたい事に谷津さんには最近彼氏が出来た。その人は10年来の友人で、ずっと谷津さんに片思いしていた人なんだとか。谷津さんが彼氏と別れて落ち込んでいるのをずっとそばで支えてくれて気持ちが通じたらしい。

「何度も聞きますけど、本当に俺と二人で飲んでて大丈夫なんですか?」
「んー、まぁ大丈夫なんじゃない?」
「でも彼女が他の男と二人きりで飲むって、彼氏さんからしたら気分悪くないですか」
「そうかしら」
「そうですよ。俺だったら絶対嫌ですね」
「まぁ、普通ならそうよね~。でも、あいつはあたしがこういう性格で男友達が多いことも知ってるから大丈夫」

 さらっとあいつ呼ばわりする間柄に俺はちょっと安心した。エリザで見せたあの涙を癒してくれる人が現れて本当に良かった。ひょんな事でこうして関りを持つようになった俺と谷津さんだったけれど、今では彼女の幸せを願う程には親しくなっているつもりだった。

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