失恋レクイエム ~この思いにさよならを~
「初めてだよね、マユちゃんがこんなお願いしてくるの」
次の日、練習したくて早めにエリザに向かった私に酒井さんが目を丸くしていた。
「ですね・・・、自分でもちょっと驚いています、はは」
今になって、少し怖気づいている自分も実はいた。でも、もう、腹を括るしかない。ステージも観客も整ったのだから。
「もしかして、例の彼?」
「相変わらずのご慧眼で」
本当、酒井さんにはかなわないな。
「そういえば、思い出したんだけど、前にマユちゃんがスランプで悩んでた時あったでしょ」
あぁ、ありましたね。思うような音楽が出来なくて、ステージに立つのもしんどかった時。それでも酒井さんに出るように言われて何とか歌っていた時だったな。
酒井さんは、頷く私に続ける。
「あの時、拍手貰ったの、覚えてる?」
「はい」
忘れるはずがない。
スランプに悩んで悩んで、ステージに立って、それでも自分の道が見えなくて迷子になっていた時。弾き終わった私に届いたあの拍手は、私を救ってくれたんだもの。
「あの拍手の人、羽賀さんだったよ」
「え・・・」
うそ・・・・。
「優しい人だね、彼」