約束の場所【短編・完結】
「母様?」

背後からの
幼い男の子の声に
ゆっくりと
振り向いて

「景丸
母はここから見える
城の桜が
一番好きだわ」

我が子に
そう伝えるのだった

「母様
あの黒松に登ったら
もっとよく
見えますよ」

視界を遮る
大木を指して
景丸は答える

「そうね…」

にこりと笑って
千は答えた

「何が可笑しいのです?」

不思議な表情で
母を見つめる景丸の
頭をなでて

けれども
その問いには
答えずに

「さあ…
ご飯にしましょうね」

名残惜しそうに
もう一度桜を見つめて
千は建物の中へ
消えていった


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