蜜色オフィス


「じゃあ、行こうか」


肩を抱かれて、そのまま沖田さんに連れられるまま歩き出す。

抱かれてる肩が気持ち悪い。
この距離感も、触れてる身体も……、全部全部、気持ち悪い。

考えが甘かった。
こんな卑怯な手を使ってくるなんて、思ってもいなかった。

だから……、決心がつかない。

けど、沖田さんはわざとなのか、考える時間を与えてくれない。

沖田さんが、本当に社長の子供だとして。
だからって一社員をクビにしたりできるのか、とか。
本気でそれを社長にお願いするつもりなのか、とか。

そんな、社会人っていうか人としてどうかと思う事を、するのか、とか。
……でも、沖田さんは多分それができる人だ。


思いつく限りの疑問を、ひとつずつ冷静に判断したいのに……。
急かす様に私の背中を押す手が、それを許さない。

急かされて、頭の中がぐちゃぐちゃに混乱する。
疑問や悔しさ、焦りが、頭の中に散らかって何も見えなくなる。

そんな中、見つけられる気持ちは……、ひとつだけだった。


何が本当かも、何がまやかしなのかも分からない中、本当だって言い切れる気持ちは。

―――宮坂を想う気持ちだけだ。








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