蜜色オフィス


―――“別れ”
その言葉を聞いた瞬間、意識が遠のくくらいの衝撃が走った。

それは、さっき沖田さんに殴られた時の衝撃を忘れるほどの大きさだった。


「俺が社長の息子だって事は、近々公にされる予定なんだよ。
そうすれば、芽衣との関係だって一気に広がる。
少し前まで付き合っていたらしい、ってね」
「だとしても……、沖田さんと私はもう何の関係もないし、付き合いだって曖昧なモノでしかなかったじゃないですか。
それを今さら噂されたって、」
「事実上はね。
でも噂なんていい加減だから、ちょっと言葉を足してやるだけで、まったく別の話に変わる」


意味が分からなくて顔をしかめると、沖田さんが楽しそうに笑いながら続ける。


「アイツが俺から芽衣を奪ったって話ぐらいには、すぐにすりかえれる」
「そんなの、私が違うって言えば……っ」
「その話の場合、俺が“被害者”だ。
加害者と被害者が違う意見を出した場合、人は被害者の言う事を信用しやすい。
芽衣もそういうタイプだろ」


すぐに言葉を返せなかったのは……、沖田さんの言ってる事が間違っていなかったから。

悔しいけど、私が弱者の言葉を信じやすいのは事実だ。

そしてそれは多分、私だけじゃない。










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