蜜色オフィス


「予約だって、人気すぎてあまり取れないって書いてあったよ」
「たまたま取引先にこのホテルに顔が利く人がいたから。
仕事のついでにちょっと聞いてみたら、ふたつ返事で予約してくれたんだ」
「取引先って……、そんなプライベートな話して大丈夫なの?」
「平気だよ。長い付き合いの人だし、俺もホテルの優遇券なんかを頼まれた事もあるから」
「でも……」
「別に世話してたわけじゃないけど、お返ししたいっていつも言ってきてくれてたから丁度よかったし。

あまり嬉しくない?」


宮坂がそう聞いたのは、私が戸惑ってたのが伝わったからだと思う。

宮坂が私の行きたがってた場所を覚えていてくれて、予約までしてくれたのは、もちろん嬉しいに決まってる。
けど……、宮坂が仕事にプライベートを持ち込まない事を、ずっと見てきて知ってたから。

今回、宮坂が自分のスタンスを変えてまで仕事中にそんな話をしてくれたのが……、嬉しくて、苦しかった。


「嬉しいよ。
でも宮坂、今まで仕事にプライベートを持ち込んだりしなかったから」


宮坂は安心したように微笑んだ後、私の手を握る。



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