蜜色オフィス


不思議に思ったけど、宮坂が私の髪の事を気にしてくれたのが少し嬉しくて答える。


「うん。ここ一年くらいはずっと巻いてたから。
なんか巻いてた方が大人っぽいって部長が言うし。
……でも宮坂がそんな事に気付いてくれるなんて思わなかった」
「取引先の相手に一度聞かれたから。
『あの子、パーマかけたの?』って」
「……それって、Y商社の山口さん?」
「よく分かったな」
「うん。……なんかあの人ちょっと気持ち悪い目で見てくるから、なんとなく。
何回か電話もらって、食事とか誘われてるし警戒中。
……宮坂、なんて答えたの?」


ちょっとだけ不安になって聞くと、宮坂は前を見たまま淡々と答えた。


「『女子社員に髪の事を言うのは、捕らえ方によってはセクハラになるらしいので特に聞いてはいませんけど』って」
「そう……」
「ついでに、『付き合っている相手にでも言われたんじゃないですか? もう、長い付き合いしている相手がいるようですから』って」
「え……」


車が、赤信号で止まる。

緩やかに踏んだブレーキで車を停止させた宮坂が、視線だけを私に向けた。
いつもは無感情の口許に、微かに笑みが混じる。



< 23 / 302 >

この作品をシェア

pagetop