蜜色オフィス


「あの時運んできたのが、彼氏だろう? 
分かるよー。警備員暦長いとそういうの分かるようになるんだよね。
キミを抱きかかえてきた時の彼氏の顔、見せてやりたかったよ。
そりゃあもう心配そうでねー。幸せ者だね」


ペラペラ話すおじさんには気が引けたけど、そのままにしておくのはイヤだったから「違うんです」って切り出す。

沖田さんとの事なんか噂にされたら、たまったもんじゃない。


「運んできた人は、彼氏とかじゃありません」


きっぱり言うと、おじさんは眉をひそめる。よほど納得いかなそうだ。


「あれ、そう? おっかしいなー。人違いでもしたかな。
でも、この間、彼ひとりで来た時に『彼女、元気になったか?』って聞いたら『おかげさまで』って言ってたよ」
「彼ひとりで……って、でも、名前ないですよ」


私が運ばれてきたのが三ヶ月前。そこから今日までの名前を確認したけど、沖田さんの名前はない。


「いや、あるよ。つい先週だし。……あ、ほら。これだろ、確か」


ノートにあるたくさんの名前の中からおじさんが指したのは……、宮坂の名前だった。




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