蜜色オフィス
「ある事ない事言って、随分早川さんに迷惑をかけていたみたいだな」
足を組んでタバコを咥えてる沖田さんは、何も答えようとはしなかった。
そんな様子にため息をついた後、社長が私に視線を戻す。
「拓海が私の息子だっていう事は、一部の人間はもう知っているし、私も公表してもいいとは思ってる。
けど、それと出世の件は別だ。
自分の子どもだからといって、無能な人間を後任に選ぶほど、無責任じゃないつもりだよ」
「そのわりに、随分しつこく"うちの会社に入れ"って言って来たけど」
宮坂が言うと、社長は困り顔で笑った。
「それは私のわがままだ。拓海も千明も、普通の家庭のように育ててやれなかった。
父親としてしてやるべき事を何もしてやれなかったから、せめて就職先くらいって頭が働いてしまったんだ。
……特に拓海には」
幼い時に手放しちゃったからかな、なんて思いながら見ていると、暗い表情を浮かべて俯いていた社長が、今度は困り顔で宮坂を見た。