蜜色オフィス


「宮坂が冗談とか言うと思わなかったから一瞬びっくりしたけどね。
からかったつもりだろうけど、さすがの私でも騙されたりしな―――……」
「冗談じゃないって言ったら?」
「え、」
「思い出させてあげようか?」
「え……、えっ」


宮坂が発したとは思えないような言葉が聞こえてきて、目をパチパチしてみる。
だって……、私から見る宮坂は、眼鏡の似合う“孤独王子”で、冷たくて、性欲の“せ”の字もないような男。

けど、今目の前にいるのは……。

メガネをノートパソコンのキーボードの上に置いた宮坂が、私の手を取って力強く引っ張る。

その反動で、座っていたキャスターつきの椅子が倒れて……。
私はと言うと。

立ち上がらされて、片膝だけ、宮坂が座ってる椅子の上っていう、変な体勢。
私よりも20センチくらい背の高い宮坂を見下ろしてるなんて、不思議な感じだ。

だけど。
倒れた椅子とか自分の体勢とかよりも気になるのは。

唇が、重なってるって事。



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