蜜色オフィス


「やな女だよね、私。欲深いのかな」


わざと冗談みたいに笑って、給湯室を出ようと歩き出す。
けど、宮坂の言葉がそれを止めた。


「自分のモノだと思っていたモノが誰かに取られそうになると、それがどんな些細なモノでも眩しく見えたりする」
「え、」
「人間は浅ましい生き物だから、早川がイヤな女ってわけでもないだろ。
まして、沖田から告白してきて強引に付き合わされたなら、そんな気持ちになっても仕方ない」
「……そう、かな」


まさか、フォローしてくれるなんて思ってなかった……。

キョトンとしたまま見ていると、宮坂がカップを口に運びながら続けた。


「それに、人間から欲はとってもとれないモノだから。
俺のキスに応えた早川は、欲望に正直なだけで欲深いわけでも淫乱なわけでもなんでも―――……、」
「ちょ、ちょっと!! 変な事言わないでっ!」






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