隣の席のキミ
彼女のことを聞かれて、戸惑った。
まさか、山城さんが聞いてくるとは思わなかった。
本当、強くなったんだな…。
でも、面影はしっかりと、残っていた。
その表情の中にも、胸の奥にも。
結局、彼女を教えてやることもできなかった。
…突然、君の口から出た言葉。
俺は今でも鮮明に覚えている。
「……私と、キスして…ください」
どうしたらいいのか分からず、情けない俺はただ、黙っていることしかできなかった。
そして、彼女は言葉を続けた。
「…お願い。最初で最後だから…」
もう、何もしてやれない。
俺はコイツを傷つけることしか、できない。
もし、俺が今、山城さんにキスをしたら俺はなんて汚れた生き物なんだろう…。
梨華のことも、山城さんのことも、何も分かってない俺が、その答えを選ぶ権利なんてない。
でも、俺の口は止まることを知らない。
知らないうちに、俺は山城さんにキスをしていた。
視界に入ってきた、キラリと輝く涙。
夕焼け色に染まった山城由花は、どんな時よりも綺麗に見えた。
深く、切ないキス。
もう、二度とする事はないだろう。
「俺、今日は帰んね」