十三画の聖約
どうやらカーテンを閉めるのを忘れたらしい。
ベッドの横、東向きに大きく開いた窓から朝日が惜し気もなく降り注いでいる。
眩しさに耐えきれず起き上がると、壁の時計は6時を指している。
久しぶりの晴れだ。
「おはよう」
「おう。身体の調子はどうでしょう」
「万全です」
階下へ下りていくと、お兄ちゃんはもうキッチンに立っていた。
昨夜はお風呂にも入らずに寝てしまったから、珍しく朝からシャワーを浴びる。
お風呂場にも日の光は差し込んで、爽やかな気分になる。
10時間も寝たからか、とてもすっきりしていた。
脱衣所で2階から持ってきた制服に着替え、簡単に髪を乾かす。リビングへ再び顔を出す頃には、既に朝ごはんが並んでいた。
「いただきます、」
「凛、俺の野菜も食っていいよ」
いつも眠そうな目が、更に睡眠を欲している。
お兄ちゃんは低血圧で朝から多くは食べられない。
なら私の分だけ作るとか、自分は後にするとかすればいいのに何がなんでも朝ご飯を一緒に食べようとするのはお兄ちゃんらしい。
毎朝の光景。怠そうにオレンジジュースを飲むお兄ちゃんに、私が言う台詞。
「ちゃんと食べないからそんなガリガリなんだよ」
「ガリガリじゃないから平気だよ。凛子こそもっと食え」
「今日の予定は?」
「バイト。夜は誰か来るかも」
「藤さん?荒井さん?仁和さん?」
「うーん、全員かな」
「藤さんに私の部屋に入らないよう言っといてね」
「まかせなさい。……あ、凛子、弁当」
カウンターに置いてあった赤い包みをお兄ちゃんが指さす。
「え、作ってくれたの?」
「ついでにね」
食事当番にお昼ご飯は含まれていないのに。
誰かにお弁当を作ってもらう、なんて久しぶりで不思議な気分だった。
私は7時半に家を出る。
「行ってきまーす」
「気を付けてな」
庭はひんやりと朝の匂いがした。
空は昨日までとはうって変わっての雲ひとつ無い晴天で、気持ちが落ち着く。
夏が、近い。