十三画の聖約
「ピーマン、にんじん、玉ねぎ、もやし、キャベツ……野菜炒め」




コンロにフライパンと、水をはった鍋を並べて火にかける。

今日の献立は野菜炒めと野菜スープでいいや、もう。
ちらりと横目で見れば、炊飯器は保温のランプを光らせている。

そろそろ冷蔵庫の中身が心もとない。土曜は買い物に行かなきゃか。考えながら切った野菜を、油をひいたフライパンと、コンソメキューブを溶かしたスープに放り込む。あ、スープにピーマン入っちゃった。まぁいいか。


料理は嫌いじゃない。
めんどくさいと思うこともあるけれど、基本的には好きだ。




(それにしても…ひとり分の夕ごはん作るのって空しいんだよなぁ)




野菜炒めは火を通しすぎずに、スープの野菜は崩れるくらいに。
フライパンの乗ったコンロの火を止めながら、シンクの上の水切りから自分用の赤を基調としたお茶碗をとる。

しゃもじを手に、炊飯器の蓋を開けて、―――開けて、私は固まった。


炊飯器の中身はほとんどゼロに近く、 申し訳程度、ほんの一口分くらいが残されているだけだった。




「あ、のバカ兄…っ」




どうして水をはっておかない。それ以前にシンクに出しておけ。…せめてスイッチを切って蓋を開けておくだけでもいい。

妙に期待してしまっただけに、地味なショックと怒りが沸き上がってくる。


しかし無いものは仕方ない。溜め息をついて炊飯ジャーに水をはっていると、玄関で物音がした。


カチャリ、と軽い、鍵の回る音。まさか。
慌ててタオルで両手を拭い、玄関へ走った。


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