十三画の聖約


「お、凛子。ただいま」

「ご飯食べたんなら水はっといて」

「……は?」




ドアを開けて入ってきたそいつに、開口一番そう告げる。

ぽかん、と口を開けて、どう見てもダメージを受けすぎなジーンズのポケットから白い携帯電話を抜いて、




「あれ?もう7時過ぎてる。凛、メシは?もう食った?」




さっきの私の言葉が届いていなかったのであろう奴の首元に手を伸ばし、私は“原因”を思い切り引っ張った。

両耳からイヤホンが飛ぶ。




「お兄ちゃんが炊飯器そのままにしとくからご飯あるんだと思ってたら無かったからこれから炊くの!」




ら、が多い。言ってから自分で気付く。
言われた当人は相変わらず緊張感のない顔(生まれつきか)で、気の抜けたような笑顔を見せた。




「ごめん。パン買ってきたけど、食べる?」




右手のコンビニ袋を顔の高さに掲げて、スニーカーを脱ぐ。隣に並ぶとこいつの方がずっと高い。

なんだか無性に苛立って、その手から袋を奪った。




「……何パン?」

「りんごのデニッシュ。」




今夜の献立は野菜炒めと野菜スープにりんごデニッシュに決まった。
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