十三画の聖約
お兄ちゃんは私と似ていない。
ふわふわした柔らかそうな天然パーマ気味の黒髪は外の湿気も手伝って好き放題に跳ね回っている。
いつも眠そうな垂れた目に、色素の薄い唇。柔らかい声。22には見えない落ち着き加減。
全体的に色素が薄くて猫目の私はお母さん似で、お兄ちゃんはお父さんに似ている。
私と違ってお兄ちゃんは視力が悪いし、お兄ちゃんと違って私は結構病気がちだったりする。
こうしてみると似ているところなんてほんとに無いということを感じた。2人とも病的に色が白いということくらいか。
「、凛子」
「……ん?」
「ちょっと、」
お兄ちゃんが身を乗り出して、手を伸ばす。
指先についたパン屑を払っていた私は反射的に目をつぶる。
スッと、熱くも冷たくもない、同じ温度の大きな掌が私の額を覆った。
「熱はないけど」
「何?」
「後片付け俺やるから、もう寝なさい。兄貴命令。」
乱れた前髪を軽く直しながら見れば、お兄ちゃんは私のスープ皿を引き寄せて自分のそれと重ねた。
「具合悪そう?」
「死にそうな顔してる。何かあった?」
特に理由は思い当たらなくて首を横に振る。
そういえば今日はぼんやりしていたけど、雨だからだ。
でもお兄ちゃんがそう言うのならそうなのだろう。
私はちょっとしたことで風邪をひいたりするし、それも一度かかると長引く。
両親不在の我が家では、病気は例え風邪でも大敵だ。
お兄ちゃんは私の不調に、本人よりも先に気がつく。
「じゃあ、そうする」
「薬飲んで」
「どの?」
「半分が優しさで出来てるやつ」
椅子から立ち上がると確かにふらついた。あぁ、これは本当に寝た方が良さそう。
リビングから廊下へ続くドアを開けて、ふと思い出す。そうだ、言っておかなきゃ。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「明日と明後日、お兄ちゃんが当番だからね」