不機嫌に最愛
「とりあえず、夜行くから。それまでに機嫌直しとけよ?」
「……それは、梓希先輩次第だと思います」
お勘定を済ませて、あとは美容室から出るだけ。
梓希先輩は、頭を優しく撫でながら念を押してくる。
そんなに私が不機嫌だと困るのか、……まぁ、あんなに突っ掛かってこられればそう思われてしょうがないのかもしれないけど。
「俺次第、か……。俺のせいで萌楓が不機嫌だって言うなら、構い倒せばいい?」
「構い倒される、のは遠慮しておきます」
一見爽やかな笑顔が不敵な笑みに見えたのは、気のせいだと思いたい……。
確かに、私は甘えたな構ってちゃんな面もあるけど、今は純粋に怖いっていうか。
……半刻前まで、冷たい瞳をして怒ってた梓希先輩だから、甘やかしてくれる気がしない。
「本当、いつもの素直さはどこに行ったんだか」
「………………」
何も言えない私は、俯くしかなくて。
そんな私の背を梓希先輩が押して、追い出される形でいつの間にか店から出ていた。