不機嫌に最愛
そこに写り込んだのは、さっきまではいなかった異常な程に呼気を荒げさせた男の人。
ニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべている。
恐怖で血の気がサーッと引いていくのが自分でもわかって、どうしていいのかわからない。
こんな時には、持ち前の気の強さなんか発揮されるはずもなく、覗き穴から目を離すのがやっとだった。
梓希先輩、早く来て……!!
祈るように手を組み、ギュッと目を閉じた瞬間、ガチャガチャと耳につく金属音。
それは明らかに、ドアノブを回し続けている音で。
鍵も閉まっているしチェーンもかかってるから、大丈夫。
……たぶん!!
ガチャガチャ、ガチャガチャ……。
いつまで続くのか、このままじゃドアノブが壊れるかもしれないってくらいに、止む気配はなくて。
もう何分、何十分経ったのか、全然わからない。
「梓希先輩のバカ。早く来てよ……」
ポツリと呟いた瞬間、金属音の合間、聞き慣れた声がした。