不機嫌に最愛
「萌楓?」
「……………………、」
「萌楓さーん?大丈夫か?」
抱き付いている私を更に抱き寄せて、後頭部をヨシヨシと宥めるように撫でる手は、私を甘やかす時と同じで。
「大丈夫だけど、……大丈夫じゃない。」
「え?」
「梓希先輩、遅いです!!」
抱き付いた状態のまま、目線を上げて梓希先輩を睨み付けてはみたけど、それはただ拗ねた素振りだと自分でわかってる。
梓希先輩が来てくれなかったら、どうなっていたことか……。
「……ったく、萌楓が可愛すぎるのが悪いのに、俺のせいかよ?」
「……へ?」
ブツブツと呟いたかと思えば、突然体が浮上していて。
パタン、ガチャリ。
片手で腰を抱き、もう片方の手で器用にドアを閉め、鍵まで掛けてしまった梓希先輩に部屋の中へと戻されていた。
「ちょっ、ちよっと梓希先輩下ろしてください!!」
「ヤダ、って言ったら?」
「ヤダって、……梓希先輩!?」
問い掛けるも、それは全く無駄で。
梓希先輩は、黙ったまま部屋の中へと進みソファーに座り込んだ。
もちろん、……私を抱き上げたままで。
「し、梓希先輩?……もう下ろしてくれてもいいんじゃないですか?」
「……ヤダ」
「ヤダ、って……」
駄々っ子みたいな梓希先輩が、強く私を抱き寄せるから。
「梓希先輩、冷たい……」
「……」
無言な梓希先輩が、私の首筋に顔を埋めるようにして、……抱き締める力は強くなるばかり。
外の気温がそれだけ低かったのだろう、梓希先輩の冷えた体が私の体温を下げていく。
しょうがないから、……梓希先輩の首に腕を絡めて抱き締め返した。