不機嫌に最愛
「とにかく。今から、俺の家行くから。準備しな?」
「もー、……わかりました!!」
心配してくれるのは、嬉しい。
嬉しいけど!!
好きな人の家に行くって、しかも何日か泊まっちゃうんでしょ?
心の準備が出来てないの!!
「萌楓ー?」
モヤモヤ考え込む私に、いつも通り呼び掛けてくる梓希先輩に。
「梓希先輩のバ……ッ、」
今日、何回目かわからない“梓希先輩のバカ”を言おうとしたのに。
憎まれ口を言い終わらないうちに、なぜか……唇を塞がれていた。
「……んっ、はぁ、」
昼間にされた、軽く唇同士がくっつくやつじゃない。
食べられるみたいに、唇を開かされて……蕩けらせられる。
「ったく、人のことバカバカ言いやがって」
唇を解放された瞬間、ボソリと呟かれた声は、怒ってるわけではなさそうで……。
でも、呆れ気味な声。
ソファーに座った梓希先輩とその下に座る私では、その少しの距離さえ遠く感じて。
私は自ら、……梓希先輩の首に腕を伸ばした。
「どうして、……キス、したんですか?」
「したかったから?」
「な、なんで、疑問系で返すんですか?人が真剣に聞いてるのに!!」
お互いの耳元で声が届く距離にいるのに、聞きたいことも言いたいことも伝わらない。
私が知りたいのは、“キスをした理由”なのに……
こんな風に、いつも梓希先輩は私をはぐらかす。
「……梓希先輩?」
「んー?」
「好き、です。……う、きゃあっ!?」
いつも通りの好きを伝えたら、なぜだか私は軽々持ち上げられて、……また梓希先輩の膝の上に横抱きされていて。
「萌楓、……危機感足りなくない?この状況でその言葉は」
相変わらずの至近距離。
だけど……、いつもと違う雰囲気が漂っている。