不機嫌に最愛
*彼、思案中につき──♯SHIKI
【彼、思案中につき──♯SHIKI】
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望月梓希(モチヅキシキ)、28歳、職業美容師。
現在進行形で、20歳の小娘に翻弄されている。
「望月さん、お疲れさまでーす。」
「お疲れ。」
貴重な仕事の合間の休憩時間まで、頭を占領するのは……俺を好きすぎる年下の女の子で。
昨日はつい歯止めが効かなくて、……失敗したよなー。
「望月さん、望月さん。」
休憩室に入ってきた後輩の橘(昨日、萌楓の髪を切ることを断念したヤツ)は、興味津々といった顔で呼び掛けてくる。
「んー?どうした?」
「昨日のお客様、えーと……萌楓さん?そう!柏木萌楓さん。望月さんの彼女っすか?」
「…つ!?ぶほっ、ごほっ……!!」
「大丈夫ですか!?」
……飲んでる最中の野菜ジュースを盛大に噎せた俺に、橘は大量のティッシュを取り出して渡してくる始末。
なんでよりによって、橘から萌楓の話なんだよ……。
というか、
「……付き合ってないから。」
「えー?あんなに独占欲丸出しなのにですか?……あ、」
咳払いをして喉を整えながらも、“独占欲~”辺りでジト目で睨み始めた俺に、橘はわかりやすく焦りながら、か細い声ですんませんと付け加える。
「別に、いーけど。」
とは言いながら、盛大に溜息を吐いてしまうほどには、俺だって悩んでいる。
「しかし、萌楓さんってめっちゃくちゃ可愛いですよね!?俺、ああいう女の子を彼女にしたいです!!」
うん、萌楓は可愛い。
橘より知ってるし、最近は更に……って、
「お前、何言ってるの?」
「はっ!いや、すんません、冗談です……、」
「ふーん、」
わかりやすく不機嫌な俺に、橘は取り繕うように空笑いをして。
「あ、じゃあ、先戻ります!お疲れさまです!!」
……逃げた。
橘、空気読めよ。
今、外野から萌楓の話しとか……有り得ないだろ。