Silver Forest
「もちろん……って、そんな、のんきなこと……!」
「あんた、別の世界から来たんだって? ここもそう捨てたもんじゃないんだけど、運が悪かったね」
「冗談じゃないわ! 珍しい動物、ですって? 私は人間よ!」
「そんなこと言ったって無駄だよ。あいつら、俺たちのこと、人間とは思ってないからね」
「そんなの、あんまりよ! 何とか逃げ出す方法はないの?」
私は壁にへばりついた。透明な壁はつるつるしていて、やっぱりガラスみたいな感じ。
回りをぐるりと取り囲んでいて、どこにも隙間はない。
……そんなバカな。いったい、どこから私たちを入れたのよ? と、とにかく、ガラスと同じなら、何かぶつけたら割れるかも……。石か何か、落ちてないかしら。何か、ぶつける物………。
「無駄だよ、こいつはサージュっていう木の樹液を精製して固めたものなんだ。ちょっとやそっとじゃ割れないさ」
からかうような調子に、私はカッとなった。
「何よあなた、人事みたいに! 自分の方こそ、逃げなきゃ真先に殺されるんでしょ!」
「オレはいつでも逃げられるもの」
「へ?」
「さて、あいつらもいなくなったし、そろそろ行くとするか」
彼は体をほぐすように、“う〜ん”と、気持ちよさそうに伸びをした。そしてそのまま手を伸ばし、壁に触れる。と、見る見るうちにその手が壁を突き抜けてくる。あっという間に彼は檻の外に出てしまった。
驚きに言葉も出ない私を残して、彼は部屋の扉と反対側にある窓に近付いた。四角く切り取られた石壁の向こうに、もう夕暮れなのかラベンダー色の空が見えた。
その空を背景に、彼は立ち止まってちょっと振り返り、私を見た。銀の髪が空の色を映して、微妙な紫のグラデーションに染まる。瞳の色さえスミレ色がかって見えた。
「じゃ、元気でな……と言ってもあと少しの命だろうけど」
まるでいたずらっ子のようにくるくると瞳を輝かせ、形の良い唇にかすかな笑みを浮かべて、彼はそう言った。見とれていた私は、ハッと我に返った。
「ちょっと待ってよ! あなた、私を見捨てていく気?」
「あ、やっぱり、助けて欲しい?」
「当たり前でしょ! お願い、私も連れてって!」
「あんた、別の世界から来たんだって? ここもそう捨てたもんじゃないんだけど、運が悪かったね」
「冗談じゃないわ! 珍しい動物、ですって? 私は人間よ!」
「そんなこと言ったって無駄だよ。あいつら、俺たちのこと、人間とは思ってないからね」
「そんなの、あんまりよ! 何とか逃げ出す方法はないの?」
私は壁にへばりついた。透明な壁はつるつるしていて、やっぱりガラスみたいな感じ。
回りをぐるりと取り囲んでいて、どこにも隙間はない。
……そんなバカな。いったい、どこから私たちを入れたのよ? と、とにかく、ガラスと同じなら、何かぶつけたら割れるかも……。石か何か、落ちてないかしら。何か、ぶつける物………。
「無駄だよ、こいつはサージュっていう木の樹液を精製して固めたものなんだ。ちょっとやそっとじゃ割れないさ」
からかうような調子に、私はカッとなった。
「何よあなた、人事みたいに! 自分の方こそ、逃げなきゃ真先に殺されるんでしょ!」
「オレはいつでも逃げられるもの」
「へ?」
「さて、あいつらもいなくなったし、そろそろ行くとするか」
彼は体をほぐすように、“う〜ん”と、気持ちよさそうに伸びをした。そしてそのまま手を伸ばし、壁に触れる。と、見る見るうちにその手が壁を突き抜けてくる。あっという間に彼は檻の外に出てしまった。
驚きに言葉も出ない私を残して、彼は部屋の扉と反対側にある窓に近付いた。四角く切り取られた石壁の向こうに、もう夕暮れなのかラベンダー色の空が見えた。
その空を背景に、彼は立ち止まってちょっと振り返り、私を見た。銀の髪が空の色を映して、微妙な紫のグラデーションに染まる。瞳の色さえスミレ色がかって見えた。
「じゃ、元気でな……と言ってもあと少しの命だろうけど」
まるでいたずらっ子のようにくるくると瞳を輝かせ、形の良い唇にかすかな笑みを浮かべて、彼はそう言った。見とれていた私は、ハッと我に返った。
「ちょっと待ってよ! あなた、私を見捨てていく気?」
「あ、やっぱり、助けて欲しい?」
「当たり前でしょ! お願い、私も連れてって!」