Silver Forest
第二章 夜を見つめる瞳
夜風に乗って、大広間のざわめきが伝わってくる。
窓の外を見ると、花壇や刈り込まれた庭園の灌木が、青白い月の光に煌々と照らされていた。

宴会ってあんまり好きじゃないけど、退屈だからちょっとのぞいてこようかしら。
今夜は珍しくラジールも出てるって聞いたし……。

ちょうど部屋の窓を乗り越えようとしているところに、侍女のマーナが現れた。
「まあ、姫様! なんてはしたない!」
「いいから、いいから」
「よくありませんっ! 姫様! 姫様! お待ちを!」

だって屋敷の中を通って行くと遠回りなんだもの。マーナの声を無視して窓の外に飛び降り、花壇の縁に立ってから気がついた。私、スリッパしかはいてない。……え〜い、いいや、靴を取りに帰ったりしたら、マーナに捕まっちゃう。

花壇を迂回し、壁にそって少し行くと、中庭に出る。中庭を突っ切った向かい側が、大広間だ。茂みに隠れて、そっとのぞいてみる。

いるいる、父様に神官、大臣たち。
……ラジールはいないわ。なぁんだ、残念。もう帰ったのかしら。彼が宴会嫌いだというのは本当みたい。

彼は私の先生だ。神官や大臣たちは、王女の教育をペットに任せるなんて、と、良く思ってないらしい。でも彼は父様のお気に入りだし、私が、彼が先生でなくちゃ勉強なんかしないと言い張ったのだ。

それに、彼は王宮お抱えの学者たちより、よっぽど太古の力についてよく知っている。他のことだってそうだ。

「イリア姫?」

いきなり呼ばれて、びっくりして振り向いた。回廊にラジールが立っている。

「こんな所で何をしているのです?」

ラジールは中庭に踏み込んで、近づいてきた。私はいたずらを見つかった子供みたいにバツが悪かった。けれど、ラジールに会えたので嬉しかった。

「ラジールこそ、何してるの? 宴会には出ないの?」
「抜け出して、部屋に帰るところです。姫も早くお部屋にお戻り下さい。夜風に当たるのはよくありません」

「先生、先生に質問があって来たの」
私はとっさに嘘をついた。

「それなら明日の勉強の時間に ── 」
「ううん、今すぐ知りたいの。でないと今夜は眠れそうにないの」


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