私の子猫くん
できればコウの腕を引っ張って……
いや、コウのことを置いてでもここから逃げ出したかった。
……でも何故か足が動かなかったし、背を向けることもできなかった。
「……杏?どうしたの?」
しばらく同じ方向を見て黙っていた私にしびれを切らしたのか、コウは私の顔を覗き込むようにして尋ねてきた。
コウのその声が聞こえたのか、私の視線の先にいる人物はとうとう私たちの存在に気づいてしまった。
張り付けたようなその笑顔に改めて私の背筋が凍る。
段々と私たちの方に迫ってくる。
「……杏。今日は帰りが遅かったんだ。」