泡沫のキス
きっとお母さんも話を終えたころかな。
「私、そろそろ帰ります」
そう言って、パタンとピアノを閉めて、立ち上がった私を後ろから彼が呼び止める。
「ねぇ、マリア!
僕の名前、覚えてくれた?」
振り向けば、どこか悲しげな笑顔の彼。
「朝生 十雅。でしょう?」
「僕のこと、名前で呼んで。
十雅って呼んでよ、マリア」
男の子を名前で呼ぶなんて、いつぶりだろう。
「またね、…十雅くん」
少し火照った頬を隠すように、私にお母さんの元へ急いだ。
これが、私と十雅くんの出逢いだった。