【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~
音楽の授業は、散々だった。
まずは、遅刻について苦しい言い訳をし、
心配の反動で怒り大爆発な教師のお小言をたっぷりと聞き、
さすがに『罰に、バケツを持って廊下に立っていなさい!』
とは言われなかったが、考えようによってはもっとタチが悪いもので。
顔は笑っているが、目は微塵も笑っていない、かなりひきつった表情の教師には、
『じゃあ、留学生のタキモトくんの歓迎の意を表するために、君たちに何か一曲、歌ってもらおうかな』
などど、とんでもない注文を出されて、皆の前で大声で校歌を歌う羽目に陥った。
まあ、そのお礼にと、リュウが演奏してくれた、ピアノのなんとかと言う聞き覚えのあるクラシック曲は、素晴らしく素敵で、主に女子のため息と熱い視線を集めていたが――。
優花にとっての救いは、眠る暇も無かったことだ。
そんな怒涛の音楽の授業は、あっという間に嵐のように過ぎ去り、しばし憩いの小休止。
午前中最後の授業、
歴史の前の休み時間。
女子トイレの鏡の前で、手を洗い終わった優花は、長ーい、ため息をついた。