【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~
「はぁーーーっ……」
なんか、疲れた。
どっと、疲れたよ。
鏡に映る自分の顔も、心なしか、げっそりとやつれて見える。
「何、ため息なんてついてんのよ、優花。せっかく訪れた春が逃げてくよー」
「それって、逃げてくのって『幸せ』じゃなかったっけ?」
「そうとも言うね」
他人の不幸は蜜の味ならぬ、他人のトラブルは小説ネタの元。
優花の降って湧いた婚約話に、玲子の表情は水を得た魚のごとく生き生きとしている。
「で、どうするの? 情熱のアメリカン・ボーイのプロポーズへの返事は」
「玲子ちゃんの、イジワル」
「ふふふー」
優花のせいいっぱいの反撃の言葉も、なんのその。
ごろごろごろ、と、性悪猫は、マタタビを与えられて喉を鳴らしている。
「どうしようもこうしようも、ないよ」
お付き合いしましょうだけならまだしも、
いきなり、結婚を前提にって……。