【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~
「用は、すんだんだろう? 聞きたいことがあるから、鏡で遊んでないでちょっと来い」
「って、え、ええ? ここ女子トイレっ」
文句を言う隙もあらばこそ。
いきなり女子の聖域に乱入してきた晃一郎に、むんずと手首を掴まれた優花の頭からは、今しがた自分を見舞った怪異現象に対する恐怖心は、一気にすっ飛んでしまった。
「こ、晃ちゃん?」
そのままズンズンと人気の無い、廊下の突き当りへと連行された優花は、やっと足を止めた晃一郎の顔を驚きの眼で仰ぎ見た。
「な、なに、晃ちゃん、どうしたの?」
晃一郎の表情は真剣そのもので、優花はわけもわからず、鼓動が早まるのを感じた。
『女子トイレに乱入してまで急いで聞きたいほど重要なこと』など、想像もつかない。
「お前、思い出したのか?」
「へ……?」
いきなり浴びせかけられた端的な質問に、優花は間の抜けた声を上げた。
端的過ぎて分からないのだ。
「何を?」
本気で首を傾げる優花の表情をじっと見つめていた晃一郎は、はぁーっと一つ大きなため息をついた。