【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~
どちらにしても、
ようやく立ち直りつつある晃一郎に、真実を打ち明ければ、結果は火を見るよりも明らかだ。
陽気で闊達なことが取り柄の男が、また、うっとおしく落ち込む姿は、見たくない。
だが、恋人のすぐ近くに在りながら、その存在に気付かれずにいる彼女の心中を思うと、いたたまれなくなる。
「言うべきか、言わざるべきか、それが問題、か――」
自分の迷いを茶化すように、ハムレットを気取り、呟きを落とす。
脳裏をよぎるのは、在りし日の彼女の言葉。
『あのね、リュウくん。迷ったときは、ごちゃごちゃこ難しいこと考えないで、自分がどうしたいのか、を考えるのよ』
何をすべきなのか、
ではなく、
何をしたいのか。
義務ではなく、権利を。
「そうだね。優花……」
今もなお、こうして君の残した言葉は、ボクに標を与えてくれる。
その君の遺志を、ボクは守りたい。