【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~
突然の嵐到来を知らせる、鈴木博士からの電話と、続きざまにかかってきたリュウの電話の後、
『今から、ここを出るから、すぐに用意しろ』
緊張気味の晃一郎に、そう指示された優花は、状況を飲み込めないまま、慌てて荷造りをしていた。
荷造りといっても、スポーツ・バック一つ分。
『買い替えのきく物は、全部置いていけ』と、晃一郎に厳然と言い渡されているから、さほど量は多くはない。
さし当たって必要な、数日分の着替えと、女の子の必需品。
洗面道具に、クシや、ヘアゴム、それにリップクリーム。
それと、御堂画伯の『ナノマシンちゃん画』を、バックの底に忍ばせるのは、忘れない。
――まるで、お泊りセットみたい。
『公安の対ESP特務部隊が捕まえにくるから逃げろ』
なんて言われても、イマイチぴんと来ないのが、優花の正直なところだ。
「それでいいんだな? 他の物は処分しちまうぞ?」
「え……、処分って?」
「この場で、消しちまうってことだ」
優花が胸に抱えていたスポーツバックを受け取り、自分の肩に掛けた晃一郎に、そう言い渡され、優花はぎょっと目を丸めた。
まさか、即、このまま消滅処分されてしまうとは、思わなかったのだ。