【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~

晃一郎には、亡き恋人のような、物質を空間を越えて運ぶテレポート能力はない。


できるのは、物質を分解して気化させてしまうことくらいだ。


公安の中には、物質に残った持ち主の記憶を読み取ることのできる、『サイコメトリー能力』を持つものが居る。


優花が使っていた家具や生活用品、


それがそのまま、情報を得る媒体になってしまうのだ。


「悪いが、証拠になるものを、残しては行けないからな」


「え、えっと、じゃあ、これも!」


優花は、カウンターテーブルの上の観葉植物の鉢植えを、しっかと両腕に抱える。


自然と触れ合う機会がほとんどない環境の中で、この植物たちには、いつも慰められた。


人口的な紫外線ライトの光だけで、けなげなに葉を広げ、花を咲かせる植物たち。


この子たちも、懸命に生きてる。


その命を、消してしまうには、忍びなかった。


「それで、いいな?」


優花は、あまり広いとはいえない、その空間にゆっくりと、視線を巡らせた。


初めは、何もなかった。


白くて無機質な冷たい空間だった。


それじゃあ味気ないからと、


玲子が、せっせと、インターネットで注文して買いそろえてくれた、ファブリックや、いろいろなグッツだち。


――みんな。


いままで、ありがとうね。


優花は、心の中で、


この部屋に存在するすべてのものに、別れを告げ、


「うん。もういいよ、晃ちゃん」


静かにうなずく。

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