【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~


『アタシも、一緒に行く』


真剣な面持ちでそう主張する玲子に、残るように言ったのは晃一郎だ。


黒田マリアに会った際、晃一郎は、優花を自分の従妹だと説明しているから、関わりを否定することは不可能だが、


玲子の立ち位置ならば、まだ『偶然エレベーターで居合わせただけ』だと、言い逃れが可能だ。


優花のことを放っておけない玲子の気持ちは良く分かるが、何も彼女まで、自ら危険に飛び込むような真似をしなくてもいいのだ。


そんなことになれば、心を痛めるのは、玲子が案じている優花自身なのだから。


「村瀬は、普段どおりに仕事をしろ。何か聞かれても、知らぬ存ぜずで押し通せ。そうすれば、切り抜けられる。お前、そういうのは得意だろ?」


説得を試みる晃一郎に、玲子の浮かべる表情は、至極不服気だ。


「だけど、アタシだけ、のほほんと安全圏にいるなんて、できないよ――」

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