【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~
終わりのないような螺旋の階段を、止まることなく降り続けながら、晃一郎は懸命に付いてくる背後の優花に、声をかけた。
「心配するな。村瀬なら、大丈夫。あいつは、案外、肝が据わっているからな」
不安と焦りで押しつぶされそうな優花の気持ちは、超能力を使わなくても、ひしひしと伝わってくる。
言葉など、気休めに過ぎないが、それでもないよりはマシだ。
「博士は、ああ見えて、筋金入りの頑固者だし、リュウに至っては『国家権力なんかクソ食らえ』な精神の持ち主だから、心配するだけ無駄だからな」
それに、と、
晃一郎は、笑いを含んだ声で続ける。
「別に、お前は犯罪者じゃない。ぶっちゃけ、不法滞在者の摘発に過ぎないんだから、せいぜい、報告義務違反で戒告処分があるくらいだろうよ」
晃一郎の言わんとすることは、優花にも理解できたが、
だからといって、百パーセントの安全が保障されるわけではない。
優花にしてみれば、自分の存在が招いた凶事だ。
そのせいで、あの優しい人たちに何らかの危険が及ぶ、
危害が加えられるかもしれない。
そう考えただけで、恐怖に、背筋が凍る。
――玲子ちゃん。
リュウ先生。
鈴木博士。
お願いだから、みんな、無事でいて……。