【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~
「あれ? 優花、寝ちゃったの?」
晃一郎の右肩に、こてっと頭を寄りかからせて、いつの間にか眠ってしまったらしい優花の顔を覗き込んで、玲子が、微笑む。
優花の膝の上では、ポチが、幸せそうに丸くなっている。
「ああ。さすがに、緊張の連続で、疲れたんだろう」
そう言う晃一郎の声にも、疲れの色が隠せない。
「あんたもね。御堂」
晃一郎は、わずかに口の端を上げて、左手を伸ばして、優花の頬に落ちかかる銀色の髪を、耳にかけてやる。
見つめる眼差しは、かつての恋人に向けられていたものと、よく似ていた。
そのようすを、考え深げに見つめていた玲子が、静かに、問いかける。
「さっきの話だけど」
「うん?」
その視線は、優花に向けたまま、晃一郎は、声だけで答える。
「本当は、帰って欲しくないんでしょ、この子に」
しばしの沈黙の後、晃一郎は、静かに口を開いた。