【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~

長い指がカーテンを引き開け、佇む声の主の姿が現れる。


濃紺のブレサーとグレーのスラックス。


それに、エンジのネクタイ。


晃一郎も、玲子と同じで見慣れた制服をまとっているのに、どうしてもそこに漂う非現実感が拭えない。


一番の原因は言うまでもなく、夢の中と同じ鮮やかな金色の髪。


サラサラな髪の下の色素の薄い真っ直ぐな瞳に視線が捕まり、早まる鼓動に更に拍車がかかる。


言ってしまおうか、夢の事を。


『こんな夢見ちゃったよ』と、冗談めかして。


きっと『少女漫画の読みすぎだよお前』って、笑ってくれるはず。


そう思うのに。


なんだか、怖い現実を引き寄せてしまいそうで、言葉が出てこない。

< 285 / 357 >

この作品をシェア

pagetop