【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~
「じゃあ、帰るぞ優花」
「えっ!?」
歩みよってきた晃一郎は、ベッドに背を預けて座ったままだった優花に、腕を伸ばした、
かと思いきや、ひょいっとその体を抱え上げて自分の傍らに、立たせた。
よどみない動作に、またも走る既視感。
思わず、晃一郎の顔を見上げると、その瞳には、イタズラ盛りの少年みたいな光が踊っている。
『いくぞ、優花。このまま、学校を出るんだ』
頭に直接響いてくる声に、目を見開く。
聞き違い……よね?
まさか。
まさか、そんなこと、あるわけない。
あれは、ただの夢。
ここは、夢の中の世界じゃない。
目の前にいるのが、『パラレル・ワールドの晃ちゃん』だなんて、そんなこと。
ばかげていると思いながらも、完全に否定できない自分がいた。