【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~
晃一郎の挙動の不審さも去ることながら、胸の奥でモヤモヤっとした物がわだかまっていて、優花の心はすっきりとしなかった。
たとえるなら、その答えを確実に知っているはずなのに思い出せない、『ど忘れ』のように。
何か大切なことを忘れてしまっているような、見落としているような気がして、気持ち悪いことこの上ない。
――晃ちゃんなら、何か答えを知っている?
脈絡もなく、そんな思いに駆られた。
でも、質問しようにも、どう言葉にして良いのか分からない。
それは、あくまで、漠然としたものでしかないのだ。
――ううっ。
気持ち悪いったら、ないなぁ……。
優花は、軽く眉間にシワを寄せながら、答えを求めるように、クラスメイトと髪色の変化について楽しげに会話する晃一郎の横顔を見上げた。
その時、
穏やかだった晃一郎の表情が、一瞬にしてガラリと険しいものに変わった。
急に黙り込んだと思ったら、
教壇がある方の、教室の出入り口のドア。
そこに、まるで睨みつけるような鋭い視線を投げつけている。
――何?
ドキン、と
鼓動が大きく一つ、乱れ打つ。
わきあがるのは、たとえようもない不安感。
ふだん目にしたことのない、晃一郎のその厳しい表情が、優花の胸の奥に生まれた不安の種を急激に膨らませていく。