【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~
青く澄み渡った空には、すでに入道雲の姿はなく、秋特有の薄い雲が広がっている。
仕事に、追いまくられているうちに、いつの間にか夏は終わったようだ。
木々を吹き抜けて来る、からっとした涼風が、心地いい。
「うーーん。気持ちいい……」
っていうか、眠い……。
ああ、このまま、眠ったら、気持ちよさそう。
いくら明日が休日でも、
さすがに、夜勤明けに、お出かけは無謀だったかも。
優花は、両手足を伸ばして、ゆっくりと目を閉じる。
遠くで、子供のはしゃぐ声が聞こえる。
木々の葉がこすれる音、
自分の心臓の音。
意識が、まどろみの底に沈もうとしたそのとき。
『優花』
ひどく懐かしい声に名を呼ばれ、
優花は、ハッと、目を見開いた。