【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~
「アメリカのロサンゼルスの姉妹校からの交換留学生の、リュウ・マイケル・タキモト君です。
彼は日系の二世で、日本語、英語共ぺらぺらです。生の英語に触れるよい機会ですので、みなさん、積極的に仲良くしてください」
ニコやかに説明をする先生の声が、どこか遠くで聞こえた。
「リュウ・マイケル・タキモト、です。一ヶ月という短い期間ですが、皆さん、どうぞヨロシクお願いします」
外見通りの、やや少年めいた透明感のある甘い声音が、流暢な日本語を奏でる。
そう。
まるで、楽器の演奏を聞いているような、そんな、耳に心地よい声音だった。
……リュウ?
優花の知らない名前だ。
知らないはずなのに、心の中で呟けば、何故か、胸の奥がざわつく、
不思議な名前。
「――まさか、な。ただの偶然……か? にしても、タイミングよすぎねぇか?」
「え?」
隣の席で上がった、耳朶を掠める意味不明な独り言のような晃一郎の呟きに、優花は、小首を傾げた。
そんな優花の反応に気付いた晃一郎は、口の端を上げると、隣の席から手を伸ばして『くしゃくしゃ』っと無造作に優花の頭を撫でる。
「いや、何でもない。お前は、何も心配するな」
伝わる、大きな手の平の温もりと、くすぐったい感触に優花の胸を過ぎるのは既視感《デ・ジャブー》。
――心配って……、え?
その動作があまりに自然だったので、優花の反応は、ワンテンポ遅れた。