【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~


ぱくぱくぱく、と。


酸欠の金魚みたいに口を開け閉めしなががら、信じられない思いで晃一郎の顔を見上げると、その瞳には悪戯小僧のような、少年めいた楽しげな色合いが浮かんでいる。


か、か、からかわれた?


「別に、からかったつもりはないからな」


頬杖をつきながら、晃一郎は、実に楽しげに微笑んだ。


「え……?」


――今、私、声に出して言ってないよ……ね?


まるで、『心を読んだ』ようなその台詞に、優花はパチクリと目を丸める。


瞬間、プッと、晃一郎は、耐えかねたように小さく噴出した。


「ほんっと、分かりやすいよな、お前って」


どうやら、心を読まれたわけではなく、表情を読まれていたらしい。


なんだか、酷くバカにされているような気がする。


「どうせ、分かりやすいですよーだ。晃ちゃんみたいに、難しい頭の構造してないもん、私」


むーっと、


優花が頬をふくらませてぶーたれていると、教壇の方から鈴木先生ののんびりとした声が飛んできた。


「えーと。取り込み中に悪いけど、委員長。しばらくタキモト君の案内役、お願いできるかな?」


もちろん、委員長とは優花のことではなく、晃一郎のことだ。

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