【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~

鈴木先生の言葉に、皮肉やからかいが込められているわけではない。


その言葉通りに、楽しげな会話を中断させて申し訳ない、


と、心底思っているだろうその『のほほん』とした物言いが、生徒達の笑いのツボを刺激した。


教室のそこここから、クスクスと、笑い声が上がる。


うわーっ、恥ずかしいっ……。


優花は、思わず、上気した顔を俯かせて、もともと小柄な体を更に縮こまらせた。


「はい、了解です」


優花とは違い動じる風もなく、


晃一郎は、その口元に笑みを刻んだまま、すっと席を立ち、教壇に佇む留学生、滝本リュウの方へ歩み寄る。


「クラス委員長の、御堂晃一郎です。分からないことがあったら、気兼ねなく聞いてください」


リュウと対峙した晃一郎は、ニッコリ、と、満面の笑みを浮かべて委員長として過不足ない模範的な台詞を口にすると、ごく自然な動作で左手を差し出した。


Handshake.


アメリカ式に、握手を――と、晃一郎なりに気遣いを見せたらしい。


が、リュウは、戸惑ったように、差し出された『左手』を見下ろした。


その理由を、晃一郎が左手を出した瞬間、いち早く察知した優花は、どきどきと気をもんだ。

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