【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~
一時間目の現国。
優花は、少しばかり困った状況に置かれていた。
別に、教科自体には問題ない。
問題なのは――。
「ゆーか。これはどう言う意味ですか?」
と、漢字や単語をピックアップしては、興味津々で質問を投げてくる留学生・リュウの存在だった。
担任から案内役を頼まれた手前、隣の席で机をくっつけて、世話をやくのは別にかまわない。
でも。
「ええっと、これはね……」
こうも至近距離で顔を覗き込まれると、他意はなくても、ドギマギしてしまう。
ちなみに、晃一郎の隣ではなく、優花の隣の席なのには、リュウ本人の強い要望が反映されていた。
優花を挟んで、晃一郎とリュウの席があり、玲子曰く『両手に花だね』ということになる。
確かに、二人共、タイプの違うイケメンで優花の立場を羨ましく思う女生徒は多かったが、別に、この状況を優花が望んだわけではない。
「あ、じゃあ、これは?」
ヒソヒソヒソ。
耳元に落とされる、優しい声音は、酷く心地よい。
リュウにしてみれば、他の生徒の邪魔にならないようにとの配慮なのかもしれないが、間近にこの声を聞いていると、思わずうっとり――と、
すうっと、眠りに引き込まれそうになる。
って、あれ?
やだ。
本当に、眠くなってきちゃ……。
眠りに落ちる寸前の倦怠感に襲われた優花は、我知らず、こっくりと船を漕ぐ。
微かに漂う、甘い花の香りをかいだような気がした。
その芳香に、誘われるように、優花の意識は現実から遠のいていく。
突然、反応しなくなった優花の様子に、リュウは何事かと、その顔を覗き込んだ。