【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~
――ああ、夢だ。
夢を見ている。
それも、絶対見たくない、残酷な悪夢を――。
そう、忘れもしない、あれは三年前。
中三の夏休みだった。
昼間の猛暑の名残りをまだ充分に残した、肌をじっとりと濡らすような蒸れた空気に包まれた、そんな夕暮れ。
車の窓越しに流れ行く、夜の帳に包まれる間際の空は、燃えるような茜色に染まっていた。
『受験勉強の息抜きに、たまには家族みんなで外食をしよう!』という優花の提案で、父が久々に車を出すことになったのだ。
祖父母は、三人で行っておいでと、笑顔で送り出してくれた。
運転席は父。助手席が母で、運転席の後ろの座席が一人娘である優花の指定席。
七歳くらいのころに、『わたしも、助手席に乗りたいっ!』と父に言ったら、『助手席はお母さんの指定席だから、大きくなったらカレシに乗せてもらいなさい』と、やんわりと笑って断られたことがある。
今にして思えば、日頃あまり語らない人だった父の、母に関する数少ない『のろけ』だったのだと思い当たる。
仲睦まじく並んで座る両親の後姿は、ちょっと気恥ずかしいけどホッと安心できるそんな光景で、その一時は、確かに幸せな、かけがえのない、大切な時間だった。