【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~
「優花、何を食べるか決まったかい?」
運転席から、笑いを含んだ父の声が飛んできて、優花は眉根を寄せた。
流れに乗って走っていたバイパスがもうすぐ終わり、車は直に市街地へと入る。
さすがに行く先を決めないと、運転手の父が困ってしまう。
「う~~ん。どうしようかなぁ」
「なんでも良いのよ。食べたい料理を言ってみなさいよ。何もこれが最後ってわけじゃないんだから」
クスクスと、楽しげに笑いをもらしながら言う母に向かい、「だって、迷うんだもん」と、口を尖らせてみる。
食後のケーキが食べられるのは、洋食よね。
「イタリアンか、フレンチ……う~~ん」
どうにか二つに絞れた。
最後は……、やっぱりフレンチが良いかな?
フルコースって言うのを一度食べてみたかったんだ。
よし、決まった!
『お父さん、フレンチのフルコース!』
――ダメ。
――コレ以上、思イ出シテハ、ダメ――
夢と現実の狭間で、優花はたとえようもない恐怖心に駆られて、頭を振った。
「優……」
自分を呼ぶ声に、すうっと、夢の世界が遠のいていく。