彼と彼女と彼の事情
不思議だった。本当に。
あんなに酷いことをされたはずなのに……。
隼人の嫌なところは、何一つ浮かんでこなかった。
寧ろ、隼人の優しさだけが私の中で沸々と蘇った。
『嫌いになった』というのなら、諦めもつく。
でも……
『まだ愛してる』だなんて。
私はどう気持ちに整理をつけたらよいのだろう。
いくら考えても考えても、答えは見つからない。
隼人―――…。
湯船にブクブク……と頭を沈め、数秒後、プシューッと水面から顔を押し上げた。
気持ちを断ち切るようにブルブルブルッ……と頭を振り、水気を切ると浴槽から立ち上がった。