彼と彼女と彼の事情
約束は、今度の土曜日。 


11時に、大学の2号館の前で待ち合わせすることになった。 



  ………………………  


そして、迎えた土曜日。 


その日は、まだ3月だというのに、初夏を思わせるような暖かさだった。



気象庁の〈桜の開花予想〉では、例年より遅めということだったが…… 



目の前にどっしりと構える桜の木は、ちらほらとピンク色の顔を覗かせていた。 


樹齢何百年という、どっしりとした大木の前に立つと、不思議と心が落ち着く。 


樹皮に手を当て、花びらに手を伸ばそうとするも…… 


残念。



私の背丈では、及ばなかった。 



――と、紙袋を提げた千尋がやってきた。



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