彼と彼女と彼の事情
気が付けば、取るものも取らず、車のキーだけ握り締め、エレベータに乗っていた。 


駐車場へと向かう間も、胸のドキドキが止まらない。 


郁人が――…


あの郁人が、ここへ向かう途中に事故に遭ったなんて…… 


本当に、信じがたいことだった。 


俊敏で運動神経抜群の郁人。  あの郁人が、事故に遭うなんて、到底、考えられない。 



――…まさか……私のせい?
私に会いに来ようと、急いだから?



責任を感じつつ、逸る気持ちを抑えながら、車はエンジン音とともに、病院へと滑りだした――。




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