彼と彼女と彼の事情
〈13〉安らぎ
外は4月とはいえ、風が冷たく、肌寒かった。 



上に羽織るものを持ち合わせていなかった私は、ブルッと身震いした程だ。 



「さみいなぁ…」



隣に立つ隼人も、ブルブルっと身体を震わせ、ポケットからタバコを取り出し、火を点けた。 



「はぁ〜、やっと、吸えたよ」



ひんやりとした空気の中、タバコの匂いが、煙とともに空を舞う。 



隼人のタバコの匂い……なんだか懐かしい。 



郁人とは違う、このタバコの匂い。あれだけ嫌いだったのにね……タバコ。 



この匂いだけは、やっぱり、忘れていない。 




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