彼と彼女と彼の事情
隣のベッドで、砂袋を足に乗せ、リハビリ中のムラさん(村山)が、



「もうすぐ、いい男になって帰ってくるよ!そこに座って、待っときなよ」



と、親指を突き出し、ニヤッと笑った。



ムラさんはまだ30代半ばだが、この病室では、一番の年長者だった。 



明るい人柄で、いつも皆を笑わせる人気者だった。



とりわけ、郁人とは仲が良く、私もお見舞いに来るたびに、こうして話をすることが多かった。



「郁(郁人)は、いい奴だよなぁ。あいつの彼女になる人は、幸せだろうな」



優しい目をしたムラさんが、ゆっくりと語り掛ける。



< 182 / 300 >

この作品をシェア

pagetop