彼と彼女と彼の事情
私は、その問いには、返事をせず、ニコッと頷いた。 


「郁の奴、奈緒ちゃんがこうして毎日、来てくれるのをすごく楽しみにしてるんだよ!」



「…そうなんですか?」



「あぁ。奈緒ちゃんが来る頃になったら、ソワソワして…車椅子で外来やエレベーターホールまで見に行くしな…」



薄いカーテンを半分開けていたせいか、柔らかな春の陽射しが、私たち二人を暖かく包み込む。 



なんだか、顔が熱くて、火照ってるみたい…。 



なんとなく、気恥ずかしくて、顔を上げることができなかった。 



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